鞄と財布、両方の良さを活かした、 本当に使いやすいバッグを作りたい。
鞄の街が本格的に財布作りをスタート。
また、2018年11月「豊岡鞄®」を展開する兵庫県鞄工業組合が、新たなブランド「豊岡財布」を立ち上げ、現在は50種類を超える財布・革小物製品が同ブランドから生産されている。
鞄と財布は、製造工程に少し違いがある。鞄は裁断したパーツをミシンで縫う作業が基本だが、財布は細かなパーツを貼り合わせるという手作業が伴う。ミリ単位の緻密さを求められ、革の端の丁寧な処理など要所に繊細な技術が必要とされる。財布に欠かせない「革」を扱う経験は、鞄づくりで一日の長がある。生き物であるが故、持ち合わせる革の個性を平らで均等な厚みで漉き裁断し、断面まで綺麗に仕上げる。鞄づくりのノウハウをミニマムに表現する財布は、精密さに美しさがある。
鞄の街が本格的に財布作りをスタート。
地元と関西を中心に仕事を探していたところ、豊岡が鞄づくりで国内屈指の産地であることを知った。鞄なら革と関わることができる。単身での移住を決心した三島さんは、2016年に豊岡の「鞄縫製者トレーニングスクール」に入学。3ヶ月間にわたり鞄の縫製を学んだ。鞄関連企業が支援する同校は卒業後に鞄業界への道が開かれている。三島さんは、株式会社足立に入社することになった。
三島さんは少しでも短期間で技術を習得するため、日々努力を重ねた。他の職人も皆そうだが、鞄の生産納期に追われる中で、時間を割くことは容易ではない。企業も職人も真剣である。財布を学んだ三島さんは、社内で意見を交換しながら、財布の商品企画を温める。
2018年、株式会社足立のブランド「ALBAPIE」で最初の財布シリーズ「prism」4型×4色が生産された。パーツに特化した同社の製品らしく、ポイントを「ファスナー」においた。YKK社製ハイクオリティファスナー「EXCELLA light」の上品な色の輝きが最大の特長。ファスナーが映える革を選び、使いやすさを考えた緻密なアイデアを随所に散りばめた。2019年には、セカンドシリーズとして革を仕様変更し、3型×4色を発売。「豊岡財布」の認定も取得した。
産地を襲った衝撃。それでも負けず商品開発。
春を迎えるころ、コロナウイルスが蔓延。外出自粛の要請は鞄産地にも影響が大きく及び、小売店の消費が落ち込み鞄出荷量が大幅に減少する。鞄製造企業は協力し逼迫した医療用ガウン生産需要に応えていた。終息の日を願いミシンを踏み続ける。三島さんもガウンを懸命に生産していた。
豊岡の鞄生産は、OEM(相手先ブランド受注生産)が大半を占め、厳しい状況が続く。それでも、近年販売チャネルが増え、生産量が伸びている「豊岡鞄®」「豊岡財布®」をはじめとした、豊岡産のオリジナル製品は歩みを止めなかった。緊急事態宣言が解除されると、製造企業は再び新商品の開発に情熱を注ぎはじめる。時代の変化に合わせた「鞄」のありかたも考え始めた。
自粛要請が落ち着くと、三島さんは再びArtisanに訪れた。店舗スタッフと新商品の細部の構造について、ディスカッションを重ねる。豊岡鞄の認定審査会で、新商品はブランド認定を見事パスした。11月の発売予定に向け計画が決まる。時間を要した分、ディテールに至るまで納得のいく形になった。新商品の名前は「マルチショルダー」。財布+鞄、いずれにおいても高い技術を備えた、豊岡だからこそ実現した製品である。
革に魅せられた一人の女性職人。
がま口は着物や浴衣にもピッタリ。ちょっと贅沢なレストランでスマートに使える、革で高級感のある、がま口財布があれば良いなと思って作りました。
財布は固い芯材を入れてカッチリと仕上げるものですが、今回は「豊岡鞄」の認定を目指し、鞄としての要素も必要なマルチショルダーということで、肩に掛けて持った時に重くならないように考えました。色々な荷物を収めるという点で、ある程度の柔らかさも必要で、芯材の調整は試行錯誤を繰り返しました。小銭入れは仕切りを設けてリップ、USB、キー等の収納を想定したサイズに。ファスナーが付いているから、開いた時に見せたくないものを入れることもできます。
人気のL字型財布を、理想的なマルチショルダーに。
中央のファスナーポケットとフリーポケットは、芯材の調整を何度も繰り返し、しっかり自立する張り感を保ちながら、芯材を極力薄くして風合いを大切に。札室の仕切りは見せたくないものを収める。中央のフリーポケットは通帳が収まる程、余裕のあるサイズ。